私は青山佳乃。
現在は夫・和春と2人で暮らしている。
私
(あ、そろそろ起きてくる頃かな?)
時計を見てそう思っていると夫が寝室から出てきた。
それを見て私はいつも夫が座るダイニングテーブルにコーヒーを置いた。
私
「はい、コーヒー。」
夫
「ん。」
結婚して28年も経てば夫のルーティンを把握し、時計を見るだけで動けるようになった。
夫との出会いは当時働いていた会社で。
会社の取引先だった夫は、背が高く仕事もバリバリこなすような印象だった。
仕事で何度か会ううちに互いに惹かれ合った私たちは程なくして結婚を前提とした交際に発展した。
2人の子宝にも恵まれ、夫婦共にもうすぐ50歳になる今、その子供たちは自立してしまった。
私
「…あ、そういえば今月はあの子たちが家を出て2年が経ちますね。」
夫
「ん、そうだな。」
息子と娘はとても仲が良く、特に息子は一見ドライだが妹思いで根は優しい子。
妹が一人暮らしをすると言い出した時も、心配だからと防犯面も兼ねて息子自ら近くに部屋を借りたという。
最初はそこまでしなくても…と思っていたが、特に妹は嫌がる様子もなくむしろ心強いとお願いしていた。
私
「まさか拓人が萌のことあんなに気にかけるとはね(笑)」
夫
「…まぁその方が萌も安心だろう。」
私
「それもそうね。…あなた、そろそろ時間ですよ。」
夫
「ん、行ってくる。」
夫の荷物を持ち玄関先まで見送った。
私
「行ってらっしゃい。」
朝はだいたいこんな感じ。
私
「あ…そろそろ私も行かないと。」
近所のデザイン工房で朝から夕方までパートをしている。
出勤しようとした時だった。
家の固定電話が鳴った。
私
「朝から誰だろう?・・はい、もしもし。」