◎前回の話はこちら
【No.6】毎日マイホームに来る放置子
◎前回の話はこちら私の言葉を聞いて、ケンくんお得意の泣き真似が始まった。でも私は、態度を曲げなかった。私「泣かれても困るのよ。 うちにはまだ小さな娘もいるし、 我が家には我が家の都合があるの」ケンくん「どうしてそんな意地悪なこと言うの。 俺
どんな理由で我が子をほったらかしているのか、
どんな理由で「遅くまで帰ってくるな」と
小学校低学年の子どもに言い含めているのか。
様々な憶測が私の頭の中を駆け回った。
今日もケンくんは家に来るだろう。
明日も明後日も、ずっと。
やっとの思いで手に入れたマイホームに、
暗い影が落ちる日々。
家族で安心して過ごせる居場所がほしくて、
がんばってきたのに。
そう思うと悔しさで泣きそうになる。
アパートと違って、
容易く引っ越しをするわけにもいかない。
私にとってマイホームは憧れであり幸せの象徴だった。
でも、嫌なことがあってもおいそれと引っ越せない持ち家は、
諸刃の剣でもあるのだと知った。
あの親子にさえ会わなければ。
そんな考えが脳裏をよぎった時、
いつものようにチャイムが鳴った。
ケンくん
「あーそーぼー」
ケンくんの声に反応して、
娘が玄関に駆け寄ろうとする。
その腕を思わず掴み、しーっと口元に手を当てた。
娘はきょとんとした顔をしている。
でも私は、
「静かにしててね」とだけ告げて、
インターホンのスイッチを切った。
反応がないことに痺れを切らしたケンくんが、
「おーい!」「いるんでしょ?」と声をあげている。
それでも返事をせずにいると、
突如窓ガラスがバンっと大きな音を立てた。
飛び上がった私たち親子の目に、
窓ガラスに張り付いたケンくんの顔と手のひらが映る。
バンバンと窓ガラスを叩き続けるケンくんをレースのカーテン越しに眺めながら、
私は娘を抱きしめ、身体を震わせることしかできなかった。