放置子

【No.10】毎日マイホームに来る放置子

放置子

◎前回の話はこちら

【No.9】毎日マイホームに来る放置子
◎前回の話はこちら 先生 「はい、もしもし。T小学校です」 受話器に出たのは、 若めの声をした男性教師だった。 私 「もしもし、私、少し前にこちらの地区に引っ越してきた者ですが。  お宅の小学校...

担任の先生の声からは、
明らかに面倒そうな雰囲気が伝わってきた。

きっと同じようなことの繰り返しで疲れてしまっているのだろう。

でも……。


「そういう話ではないと思います。
 まだ小学校低学年の子どもが、
 毎日毎日家以外の場所で時間を潰さなければ家に帰れない。
 その状況を大人が知っていながら、見て見ぬふりをするのですか?」




ケンくん担任
「いえ、それは……。
 学校側としても、けして見て見ぬふりをしているわけでは……」


「でも、『同じ家に毎日行っちゃだめだよ』と
 ケンくんに伝えるだけでは、根本的な問題は何も解決しませんよね」

ケンくん担任
「学校側としては、
 親御さんとの関係を崩さないよう配慮する必要もありますので……。
 それに、ご家庭のことに踏み込み過ぎるのはちょっと」

のらりくらりと問題から逃げようとする学校側の対応に
痺れを切らした私は、呆れを隠さない声で言った。


「分かりました。
 もういいです。学校側はそういう対応なんですね」




ケンくん担任
「学校側としてもできるだけ目を配るようにしますので……
 このたびはご迷惑をおかけして……」


「私は迷惑をかけられたから電話したわけじゃなく、
 ケンくんという子どもの身を案じて電話したんです!!」

そう言い捨てて怒り任せに電話を切った私は、
いよいよ頭を抱えてしまった。

旦那には止められたけど、
やっぱり児相に連絡すべきなのかもしれない。

私が今日家に入れなかったことで、
ケンくんはまた違う家のチャイムを鳴らしたのだろうか。




何件もの家のチャイムを鳴らして歩くケンくんの後ろ姿を想像して、
胸が詰まった。

学校側に偉そうなことを言っておきながら、
私もケンくんを拒否した。

彼の居場所を確保することより、
家族や自分の安息を優先した。

ドッと押し寄せる後悔の念に圧し潰されそうになりながら、
天窓の空が暗くなっていくのをじっと見つめていた。

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